よくよく聞いてわかること


以前、ある相談がありました。
ある方の知人についての相談でした。

その知人はわがままし放題で周りを困らせているとのことでした。
周囲からは疎まれ、避けられ、陰口をたたかれる始末。
相談された方もまた、その人に対して「自分勝手だ」と強い憤りを抱いていました。
人間関係に悪い影響が出ていて困った状態です。

しかし、その人の言動についてよくよく聞いてみると、
“わがまま”という性格傾向だけで説明がつかないことがわかってきました。
周囲に対する自分の振舞いの影響についての無頓着さ、
他者の気持ちについての配慮の乏しさがうかがえました。
その結果、「自分勝手」と評価されるに至っているかもしれないということ

それは、“想像機能”に関するものでした。

想像機能とは、自閉症スペクトラム障害について語られる際に耳にする言葉の1つです。
よく聞く言葉で言えば、アスペルガー障害といったほうが馴染みがあるかもしれません。
簡単に言うと、見えないものに想像を働かせることです。
それは、他者の立場や考え、心情などに配慮する上でも重要な働きをします。
その障害特性をもつ人の中には、そういう機能が十分に働かないために、
他者の視点が希薄で、結果的に配慮に欠ける言動に至ってしまうことがあります。

1つ重要なことですが、そういう言動の背景には、想像機能以外に、
もともとの気質、育った環境で培われた行動パターンや性格特徴なども関係するため、
そういった言動を障害そのものと短絡的に結び付けることはできません。
対人関係や社会適応の程度もさまざまであることは、言うまでもありません。
ですので、そういった方々とお会いする際には、個々の状況や背景について
それを丁寧に検討しながら課題の解決を目指すことになります。

ともかく、そういった可能性についての説明をしたところ、妙に納得されて、
憤りで満たされていた捉え方にも変化が生じました。
理解を共有していく中で、少しずつその人を冷静に捉えられるようになりました。

相手の言動が全く理解できないという状態の中、新しい視点を得ました。
理解が進むことで対処するための可能性が開けることは、
対人関係における自己効力感を多少なりとも高めてくれます。

また、自分に悪意を持っているかもしれないという懸念は、強い緊張をもたらします。
それだけじゃないかもしれないという可能性が、
その緊張を幾分か緩和させてくれたというのもあるかもしれません。

人はそれぞれ固有の心理学を持っています。
それまでの対人関係から編み出した独自の方法論です。
それによって対人関係におけるやり取りをあれやこれやと思い描き、
人の言動について様々に仮説を立てて相手の意図を読み取ろうとします。
今回のケースでも、相手の言動に対して一般的な関係性に照らして考えて、
その言動から相手の悪意を推察するに至ったようです。

発達障害という言葉がメディアでも頻繁に聞かれるようになった現在でも、
それについて正確に理解することはいまだに簡単ではありません。
特に、対人スキルについてはなかなか把握しにくい面もあるので、
“想像機能”を踏まえて仮説を立てるなんてことも一般的ではないでしょう。

医学的診断を踏まえた理解が、有効に作用することはあります。
そのためにも、相手の言葉をよくよくきいてみることは大切なことです。